世界中のユング派の文献に頻繁に引用されているこの本は日本では幻の書だった。初めて邦訳された本書は1994年9月20日にリリースされている。翻訳には5年余を要した、とあとがきに書かれている。
難解なこの本の邦訳は原訳198ページ、原注→262ページ、解説→285ページという構成になっている。錬金術の書『哲学者の薔薇園』を援用して『転移』を解説するという極めて面白い手法がとられている。『哲学者の薔薇園』は宗教改革真っ盛りの1550年、ユングがこの本を書いたのは1943年(出版は1946年)となっていている。それ故50年を経て邦訳が出た意義は極めて大きいだろう。
読んでいて『転移』というのをユングは患者と医師の間で発生するものとして書いているが、普通の人と人との間にも『転移』は発生しているように感じられた。実はこの難解な書は韓流ドラマ『魔王』に登場する。犯人は図書館でこの本を手に取る。事実『転移』はドラマの中の登場人物に頻繁に発生しているように感じた。このドラマに患者と医師は登場しない。原作者は普通の人と人との間にも『転移』は発生している、と言いたかったような気がした。