もちろん、返還は本書の重要なファクターだ。しかし、そこだけに焦点を当てたドキュメンタリーではない。むしろ、およそ返還とは関係なさそうなエピソードにこそ、この本を読む楽しさがある。たとえば、著者が飲食店で働く美少年に興味をひかれ、なんとか彼に近づこうと努力する話。あるいは、仕事を得るために白髪を染めた中年カメラマンが仕事と一緒に若い彼女を手に入れた話。また、地下鉄に乗り込んできた家族が、幼い息子の活躍によって次々と席を確保していくありさま。返還があろうとなかろうと、たくましく暮らさざるを得ない香港人こそ本書の主役といえるだろう。
他の著書に、本書と対をなす写真集『ホンコンフラワー』、デビュー作の『謝々! チャイニーズ』とその姉妹編である写真集『華南体感』がある。(松本泰樹) --このテキストは、絶版本またはこのタイトルには設定されていない版型に関連付けられています。
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見つめる人間描写が、香港の歴史や文化まで啓蒙してくれる。ていうか、気取った事を言う必要は無い。
香港カルチャーにビリビリ打たれたら、香港映画のナゾを心底知りたかったら、問答無用で読んでみるがいい。
香港の喜怒哀楽がぎっしり詰まった、著者の宝物入れを覗かせてもらえる一冊だ。活字中毒の私が、とどのつまり、彼女のパーソナリティーに惚れ込み、ミレニアムで一番好きだった本だ。
この本を「香港の悪い面ばかりが強調された本」であるとか「閉塞感が強調されている」ととる読者がいるのは、むしろ読者側の問題ではないでしょうか? 香港の雑踏、ゴミを売りながらもたくましく生きる人々、負け組になってしまったと悩む若者。これらの描写を抜き出して「香港の悪い面」と呼ぶのは、著者の意図をまったく読み取れていないとしか思えないのです。
むしろ著者が強調したかったのは、社会の混乱や貧困をものともせず!!に生き抜く、たくましい香港人の姿であって、香港の「負」の側面では決してありません。日本で生まれてしまった著者は、香港が大好きで仕方がないのだけれども、どんなにがんばっても彼女が愛する香港の住人にはなれない…そんな切なさが、本書の全編ににじみ出てでいます。少しロマンチックな言い方をすれば、この本は著者から香港に宛てたラブレターではないかと思うのです。
この本を読んで、私は一観光客以上の親しみを持って、香港を訪れてみたくなりました。
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