藤澤周平を彷彿とさせる正統派時代小説である。
しかもこれが野口卓のデビュー作らしい。
物語は、齢40にして既に隠居ながらも秘剣『蹴殺し』の遣い手“岩倉源太夫”を主人公とする連作短編集である。
表題作にして初編の「軍鶏侍」は、“藩の重職を二分する勢力争い”に巻き込まれた主人公が相手方の
刺客を斃す時代小説の定番とも言える一遍。
但し、やや生硬な筆運びと、いわゆる“悪玉”と“善玉”の色分けがやけにあっさりしており、
う〜ん所詮そこそこ止まりの出来か?と思わせたが、
「沈める鐘」「夏の終わり」と読み進めるにつれ、
武士の意地/それゆえの悲哀・武芸者の業あるいは夫婦愛の在り方
更には少年の一途な思いといったテーマを巧みな構成で物語に織り込みながら
刀切り結ぶ緊迫した立会い描写の一方で諧謔を利かせた会話のやりとりを楽しませてくれる等
これはもしや藤澤周平の系譜を継ぎ得るのではないのか?と思わせる完成度の高さに気付く。
葉室麟に続く(時代小説・歴史小説の分野での)直木賞作家は、伊東潤と確信しているが、
野口卓が本作のクオリティを維持できればその次を担い得るのではないだろうか?
(5編の内、最もお勧めは「ちと、つらい」…結びの数行がなんともうまい!)