不沈艦「武蔵」の沈没後、駆逐艦に救われ、その後、さまざまな戦場を経て、わずかに生き残った方々の実際の体験を聞き取り、数え切れないほどの資料を集め、三年をかけて執筆された力作です。作者は「一切の誇張と憶測を取り除いて、より真実に近い武蔵の物語を作り上げたかった」と後書きに記しているように、たんたんとした文体ながら、引き込まれ、読了後は打ちのめされました。とくに沈没後生き残った乗組員それぞれの運命を知って、何とも言えない気持ちです。下巻のひとつのハイライト、武蔵沈没のシーンは、誤解を恐れずに言えば、あのジェームス・キャメロン監督の「タイタニック沈没シーン」の比ではありません。リアルな映像が浮かんできます。そして「帽ふれ」と一斉に帽子をふって別れるシーン、死んだと思った同僚との再会のシーン等に何度も泣いてしまいました。
奇しくも、駆逐艦「濱風」の水雷長がエピローグで、「どうして生き残れたかと思いますか?」という作者の問いかけに、「人間の背後には、目に見えない摂理というか、なにか大きな力が働いているような気がしてなりません。『人事を尽くして天命を待つ』という言葉があるけれど、わたしは『天命を待って人事を尽くす』という気持ちでやりました。人にはそれぞれに与えられた運命のようなものがあって、その中で自分のベストを尽くす。だから『ベストを尽くして天命を待つ』なんていうのは、天命に対して、畏れ多いと思いますね。これが、戦争体験で得たことです」とおっしゃっていました。対して、戦後に生まれ、自分の力を信じて50数年生きてきたと思っていた私自身の生き様が恥ずかしくなり、しばらくは鬱鬱とした気持ちから抜けられませんでした。
私は昨年、縁あって船艦大和、駆逐艦響、戦艦日向、航空母艦龍鳳に乗船して生き延びたおじいちゃんと出会いました。おじいちゃんに喜んでもらいたくて、ウォーターラインシリーズを作り始めました。はじめは軍艦の美しいシルエットに見とれながら、十数隻作ってきましたが、そのうち軍艦の構造や戦績に興味が移り、ついにこの「軍艦武蔵」に出会いました。あのプラモデルでは小さな軍艦に、数百人、数千人の人が乗り、ひとりひとりが持ち場の業務に尽くし、死んでいったということが、何とも言えず、痛ましく、むなしく、しかし事実。
文庫本になる際に、作者はかなり加筆修正をして、読みやすくしているようなので、私にはとてもよかったようです。単行本は難しかったかもしれません。
ともあれ、軍艦模型を作っている多くの方にお勧めしたいし、戦争のある真実を知るという意味では、戦争体験のない多くの若い方にもお勧めしたいです。一生の中で、数冊出会えるかどうかの意義深い書籍だと思います。