本日紹介するこの本は、サブタイトルが<永遠の戦士 フォン・ベック1>となっておりまして、マイケル・ムアコックの永遠の戦士(エターナルチャンピオン)シリーズの一冊です。が、他の永遠の戦士のシリーズ、例えばエルリック・サーガや、ホークムーン・サーガなどとはそれほどリンクしていないし、この一冊で物語は完結するので、独立した一つの物語としてこの本は読む事ができます。
他のシリーズとの共通点といえるのは、世界の運命を主人公(この本では、ウルリッヒ・フォン・ベック)が全て担うことになるというその一点くらいです。
さて。
舞台は、30年戦争の真っ最中のドイツ、ということはプロテスタントとカトリックが激しく戦う宗教戦争のど真ん中でヨーロッパ中に戦乱が絶えなかった頃の話です。主人公のウルリッヒは地方貴族の息子として騎士になるものの、宗教戦争の中で宗教に関しては懐疑的となり、自分の肉体、戦争の中での技術だけに真実を見いだす、いつしか軍犬との異名をとるほどの名の通った、騎士というよりは傭兵隊長といった方がいい人間になっていました。
そんな彼ですから、自分の部隊からペスト患者が出たとき、迷わず彼は部下たちを捨てさり一人で旅にでます。
しかし、その旅こそがウルリッヒをして運命の扉をあけさせる旅立ったのです。
旅の途中の、ある古城で彼を待ち受けていたのは、絶世の美女のサブリナと、なんと超越者、堕ちた天使にして地獄の支配者であるルシファーでした。ウルリッヒは最初、彼が神であることや彼の放す言葉を信じようとはしませんでしたが、一緒に地獄巡りをすることでいやおうなくルシファの言葉を信じざるを得なくなります。
かくして、彼は堕天使ルシファーを主として、彼の為に働くことになったのですが、その仕事というのが奇想天外でこのアイデアだけで自分的にはこの作品に星五つをつけたいくらいです。その仕事とは「ルシファが神と対立したことを反省している証として、神に捧げる「この世界の痛みを癒すもの」=聖杯を探し出してくること」でした。聖杯の探索という、騎士の中の騎士の仕事、本物のパラディンしか出来ないとされる仕事を悪魔の王ルシファーが人間に頼み込む、それも自分が天使として再び天界に戻るために頼む、というアイデアはさすがに類似したものを見いだせず、この部分だけでも十二分に評価されていい作品だと思います。
内容の方も、皮肉が効いていて一筋縄ではいかず、ダンテの「神曲」のような地獄巡りのあと、数々の冒険をウルリッヒはすることになります。時間の関係でこのあたりでさっくりと感想をまとめてしまいますが、ひねりのきいたファンタジーであり叙事詩です。