『車輪の下で』はヘルマン・ヘッセが29歳のときに書いた作品である。いわば、新進気鋭の若手作家による青春小説なのである。
旧来の翻訳だと文体の古さのせいで、いかにも老大家が執筆したかのような印象を受けるのだが、松永美穂氏の新訳では若手作家の作品らしい、みずみずしさが感じられる。
これは、ヘルマン・ヘッセの10代の頃の栄光と挫折を基にした自叙伝的小説であり、故郷の自然の美しい描写がある一方で、ときおり、一人の少年の精神を押しつぶす画一的な教育や大人たちの無理解に対する怒りが爆発している。
訳者の解説によれば、翻訳の底本としてズーアカンプ社の初版を用いたとのことである(原点回帰!)。単に読みやすい新訳であるだけでなく、他の版では読めない内容の本である。今までに読んだことがある人も新たな発見があるだろう。