地方の書店に勤める23歳の平凡な女性・ミチルが主人公。流されやすいというか、ぼーっとした感じのミチルが、妻帯者のセールスマンとなりゆき任せの関係をもち、これまたなりゆきでそのセールスマンを追って東京に出る。その際に買った宝くじが一等の2億円に当選していたことからさまざまな波乱に遭遇していく。
一気に読める。読み始めたらとまらず、最後まで読み通してしまった。主人公のミチルの人物造形がうまいと思う。地方在住で、特段の才能も特技もなく、別に道徳にうるさいわけでもない女性だとだいたいこんな感じではないか。そういう平凡な女性が、ちょっとの気まぐれから駆け落ちもどきのことをしてみたら、それまでの日常とはまったく違う事態に陥っていく。ひょっとしたら自分にも、ちょっとした歯車のズレからそういう人生が待っているかもしれない、という奇妙な気分にさせる小説である。
本書の著者紹介にわざわざ「神経が隅々にまで行き渡る文章」で書かれているとあるが、たしかに文章はうまい。美文というわけではないが非常にこなれた文章だから、文章にひっかかることなく、すなおに作品世界に没入できる。最近の小説としては、改行や会話文が比較的少なく、文章が詰まっている印象を与えるページが多いのだが、読みにくいと感じることはまったくなかった。
出てくる登場人物は、少々精神的に病んでいるのかなと思われる二人を除いて、みな良くも悪くも平凡。平均かそれ以下の倫理観の持ち主。それだからか、全体的な読後感は、かわいた、乾燥した感じをもたらす。
病んでいそうな二人が突拍子もない行動をとるから、物語は動く。ほかのいくつかのレビューが触れているように、そこに不自然さを感じなくもない。だが、作者の文章の力なのか、私の場合は、不自然さよりも、普通だと思っていたけど実は歪んだ性格の持ち主だったという恐怖をうまく描き出していると感じだ。
人生を不確実さ、不安定さを描いた佳作だと思う。