極度に気弱で引きこもりの名探偵・音野順と、その音野の才能に惚れこみ、何かと世話を焼く
名探偵萌えの推理作家・白瀬白夜というユニークな名探偵&ワトソン役の造形が特長の本作。
『少年検閲官』とは対照的な、明るいコージー・ミステリ風の連作短篇集です。
■「踊るジョーカー」
ある富豪が、二重に施錠された地下室で腹部をナイフで刺されて殺害された。
現場の床には、なぜかトランプがばら撒かれ、凶器のナイフにも
トランプの束が刺さっており、そのほとんどがジョーカーだった。
約半年前から、被害者の身の回りの至る所で、トランプが
出現し、心臓の弱い被害者は怯えていたそうなのだが……。
密室殺人なのですが、トリック最大のポイントは、
トランプの束を刺したナイフという凶器にあります。
なぜ、そんな凶器が使われたのか?
「困難を分割せよ」という原理に則り、あまり面白みのない基本トリックに
アレンジを加え、なおかつコミカルに演出しているのが本作の美点です。
もっとも、真面目な方は、怒るか呆れるか、どちらかだと思いますがw
■「時間泥棒」
三年前に両親を交通事故で亡くした上野姉弟が暮らす屋敷で、なぜか
二束三文にしかならないアナログ時計ばかりが盗まれる事件が起きる。
屋敷には、死んだ両親の遺した数多くの美術品
があるのに、それらは、まったく盗まれていない。
果たして“時間泥棒”の目的とは何なのか?
謎自体は、非常にシンプルなのですが、発想
の転換が求められる逆説的な解法が秀逸です。
また、犯人をまんまと引っかける、音野としては
意外なほど大胆な〈逆トリック〉も見逃せません。
■「見えないダイイング・メッセージ」
「からまない君」を発明し、巨万の富を得た笹川明夫が、自室で何者かに殺害された。
笹川は、死の直前、そばにあったカメラで一枚のポラロイド写真を撮っており、
おそらくそれは、笹川の莫大な財産を入れた金庫を開錠するための暗証番号
を伝えるべく遺されたダイイング・メッセージではないかと推測される。
しかし、どこからどう見ても、何の変哲もない室内写真にしか見えず……。
《ダイイング・メッセージ》は、作者がいくらでも恣意的に扱えてしまう
題材ですが、本作のものは、かなり出来がいいのではないでしょうか
(鑑識後、写真の裏側が全体的に変色していたというのがポイント)。
写真の目に「見えない」メッセージを解読したのは音野の兄でしたが、
音野は、写真の目に「見える」不自然な点から犯人を特定することで、
名探偵としての面目(?)を保ちます。
ただ、作品としては、トリックを優先したため、後付けの動機に説得力がないのが残念。
■「毒入りバレンタイン・チョコ」
バレンタイン・チョコを手作りし、大学の研究室に持って来た
女子学生が突然倒れ、意識不明になるという事件が起きた。
現場検証で、女子学生が倒れる直前に食べていたチョコレートの台紙から
青酸化合物が検出されたため、何者かが毒物を混入した疑いが濃くなる。
しかし、毒が仕込まれていたのは、32個あったチョコ
のうち、被害者となった女子学生が食べたひとつだけ。
無差別殺人なのか、はたまた女子学生の自作自演なのか……?。
毒入りチョコは、犯人が被害者にピンポイント
で狙いを定めて仕掛けた、トリックによるもの。
自らが直接手を出す必要がないため、疑われる心配が少ないことや、事前に
室温を高めておくといった細かい条件整備など、実に作者らしい、ユニークな
着想が光るハウダニットになっていると思います。
ただ、いかに蓋然性に頼った犯行とはいえ、トリックが暴発
する危険性が閑却されているのは、いかがなものでしょう。
まあ、それも、本作の犯人像には見合っているのかもしれませんがw
■「ゆきだるまが殺しにやってくる」
雪の山道で迷った音野と白瀬は、無数のゆき
だるまに囲まれた、とある豪邸にたどり着く。
なんでも、その家では、一人娘の婿を決めるために、
候補者にゆきだるまを作らせ、競わせているらしい。
成り行きで音野も花婿候補にさせられてしまうのだが、
その後、花婿候補の一人が殺害される事件が起きる。
現場にあったゆきだるまの腕として刺さっていたバールが凶器で、
アリバイのなかったもう一人の花婿候補が容疑者にされるのだが……。
殺害現場に誰の足跡も残されていなかったという《雪密室》もの。
××のトリックを彷彿とさせるアリバイ工作はよく出来ていると思いますが、
終盤で明らかになる犯人のとんでもない“勘違い”は脱力必至の破壊力ですw