平成元年11月6日、40歳(戸籍上は39歳)の若さで亡くなった俳優・松田優作の評伝を前妻であり、ノンフィクション作家である松田美智子氏が書いた労作である。本書は世間一般で語られている偶像的な松田優作像とは別(闇)の面 (隠し続けた出自、若き日の苦悩、父親としての素顔、晩年に頼った新興宗教など)を取材を通して克明に描いており、共に暮らして最も身近な存在であった著者でしか感じる事ができない内面性を浮き彫りにさせており、松田優作(特に70年代の)を改めて知るには貴重な証言や秘話が満載である。
出自に対する負い目や執着心、また現状に満足せず、向上心旺盛であるが故に著者のみならず周囲と衝突を起こす様子が伺える。共犯関係であった脚本家・
丸山昇一氏でさえ、均衡を保ちながらも愛憎の狭間で優作氏と親交を続け、氏の訃報を知った時に思わず緊張の解放感からのガッツポーズと悲嘆に暮れる様子が“松田優作”という人物像をよく捉えていると思う。
またがんに侵された優作が、義母の紹介で新興宗教にはまっていたこと、さらには主治医とのオカルト的な不可思議な関係(映画評論家・谷岡雅樹氏も『
三文ガン患者』〈太田出版刊〉で主治医の態度に疑問を呈していた)の件は優作氏の印象から考えると知りたくない挿話である。死の恐怖から免れたい事はわかりつつも優作氏の最期が家族や仲間よりもこのような主治医と宗教家に信頼を寄せていた事が残念に思えた。
それでも古くからの友人・水谷豊氏や桃井かおり氏が語る優作像は面白く、そのなかでも終章の村川透監督(『
蘇える金狼』『
野獣死すべし』)のコメントは最も驚嘆した。優作死後、村川氏はメディア等で優作について語った事は一切なく、晩年の撮影での確執が原因ではないかと噂されていたが決してそうではなく、優作氏との関係を大事にするが故にであることを知り、感動しました。