評者は豊受大神について調べていたので広告を見て購入した。著者は古代氏族系譜についての権威で、本書はその知識から出雲・越・丹波・能登など日本海域の国造家の系図を中心にその上古史に挑戦した力作であり、新しい視点を提供し、この分野の貴重な基礎資料となることは間違いない。海部氏系図に関して「天孫族と海神族を混同する古代氏族系譜の見方では、史実の解明が程遠い」といわれるのは全く同感である。
評者はこれら全般について批評するほどの知識はないが、当面の関心事である豊受大神については「大宮売とも保食神ともいい、女性の御食津神であって、酒・食物や織物・養蚕の神でもある。宮中の御巫祭神八座の一で、伊勢神宮の外宮に祀られる」とされていてここに疑問を呈する。宮中八座には大宮売神と御膳神は別に祀られていた。食物神は天孫族も海神族も其々信仰していたはずだから、いくつも名前が出てくるのは自然であろう。著者も「櫛稲田姫は多くの豊受大神・保食神グループの一員とみるのが実態に合う」と記しておられ、また豊受大神は海神族系統とも述べられているので、天孫族の食物神についての解説が欲しかった。しかしこれは無いものねだりかもしれない。
著者の御研究が更に進展して新しい展望を切り開かれる事を期待する。