著者は1980年代の日本の超伝導研究チームを率いた人物で、そのまとめとして本書が書かれた。
超伝導についてのもっとも簡略な説明では、1911年のオネスの発見、次に1986年のベドノルツ・ミュラーの発見、とあたかも彼らが彗星のごとく現れたように書かれている。
本書の構成は、1章で80年代後半の超伝導フィーバーについて述べ、2-3章で超伝導がいかなる現象なのか紹介し、4章以降はその起源から順を追って説明する。そのクライマックスとして、10章に酸化物高温超伝導体が登場する。
1988年の出版なので、その後の超伝導研究の進展、例えばMgB2や鉄系超伝導体の話は出てこないし、数式を使わないという方針のために(それは本書に限ったことではないけれど)、かえって説明が頭に入ってこないこともある。それでも、200ページ足らずの本書を通じて、超伝導の魅力、電気抵抗ゼロと完全反磁性というわかりやすい結果と、それらが発現する舞台に絡む複雑な物理――数々の科学者を魅了し、そのいくつかはノーベル賞を受賞しながら、今なお完全には解明されていない――に触れることができる。
1章 超伝導フィーバー
1986年のベドノルツ・ミュラーの報告を発端とした「超伝導フィーバー」について。当時の日本では連日マスコミによる大騒ぎ、近いうちに超伝導の日常生活への実用化か、なんて話もあるけどそれはまだまだ、ということにも触れる。
2章 永久電流とその応用
超伝導の応用例、超伝導ケーブルやリニアモーターカーやMRIなどの紹介。
3章 マイスナー効果と磁束量子化
臨界磁場および第一種・第二種超伝導体について。マイスナー効果(完全反磁性)が存在するのは磁束が量子化されているためである。
4章 超伝導発見の前後
オネスが超伝導を発見した1911年は量子力学の黎明期であった。電子の挙動はニュートン力学ではなく量子力学によって記述される。零点運動、格子の比熱、エネルギーの量子化など。
5章 常伝導の量子論
量子論の続き。波動関数や不確定性原理、パウリの排他律、フェルミ粒子とボース粒子など。
6章 マクロ波動関数
ギンズブルグとランダウのGL理論は超伝導磁石デザインの基本コンセプトを生んだ。彼らは、超伝導状態にある電子のマクロな状態を記述するのに、温度および密度のほかに、波動関数が必要であるという大胆な仮説を導入した。
7章 超流動ヘリウム
マクロ波動関数で記述される例として、細い管内を圧力差なしで流れる超流動について。ボース・アインシュタイン凝縮について。
8章 BCS理論
超伝導研究の偉大な成果であるBCS理論について。超伝導状態においては、電子間でフォノンをやりとりすることで、電子間に引力が働き(クーパー対が形成され)、これらがボース・アインシュタイン凝縮を起こすことで、パウリ排他律を犯すことなくすべてのペアが同じ運動量で運動をする(永久電流が流れる)。
9章 ジョセフソン効果の発見と意義
BCS理論に続いた、超伝導体に挟まれた薄い絶縁膜も超伝導を示すというジョセフソン効果について。その応用として、科学計測に利用される高感度の磁束計として量子干渉素子(SQUIDO)、電圧の単位を定義するボルト原器に利用される交流ジョセフソン効果について。
10章 超伝導発現のメカニズム
BCS理論のフォノン引力の代わりに、側鎖電子の励起を介して主鎖電子間に引力が生じるというリトルのエキシトン・メカニズムについて。そしてクライマックスとして、自由に動ける電子数は少ないけれどもフォノンとのカップリングが強いために高い臨界温度を持つ、酸化物高温超伝導体について。ベドノルツ・ミュラーの狙い通りに臨界温度は上昇したが、そのメカニズムは電子-フォノンカップリングでは説明できないこと、そのほか超伝導の発現機構で解明されていない点について。