待ちに待った末に、まだインクのにおいのする「起業適齢期」をようやく手にすることができた。まず最初に読んだのは「プロローグ」と「エピローグ」だった。「プロローグ」は印象的な言葉で始まっている。「『普通』である、ということ。このどこにでも転がっていそうな事柄を、私は大切にしてきました。」その瞬間、この静かなナレーションのような言葉に、私は強く惹きつけられた。様々な荒波を経て深い経験を持つ著者が、説教めいた言葉を少しも使わずに、これまでの人生を生き生きと語り、その行間からは、「普通の心を大切にする」という人生に対する大きな悟りがにじみ出ていると感じたのである。
「起業適齢期」は経営の書であり、起業者の歩みを語る本として読むことができる。よく売られている経営書は、富豪や有名人に焦点を当てることが多く、読んだ後にはいくらかの原則的理論や人生論が残るが、どこから学んだらいいのだろうかという気分にさせられる。だが、「英語の話せなかった元銀行マンが56歳で起業した翻訳会社がなぜ大手メーカーから選ばれるのか?」という書籍紹介の言葉は、間違いなくドラえもんの不思議なポケットを覗き見るように、読者をその中へといざなってくれる。そして、我々は一人の「普通の人」と共に彼の人生のアルバムをめくり、そのわかりやすく親しみやすい経営感覚に共感するのである。
「起業適齢期」を読み終わった時、私の心に深く残ったのは「普通」という言葉だった。現代は、数少ない英雄が大変革を行うという時代ではなく、地球上に生きるすべての普通の人々こそが歴史を創造する原動力を持っている。著者は「普通」によって人生を語り、自身の経験を伝え、読者の思考を啓発することに成功している。同じような「普通の人」がこの本を読んで考えを深め、自分自身のまったく新しい人生を開拓していくかも知れない。とすれば、次につづられる本の主役は、間違いなくその人自身であろう。