昭和33年の売春防止法の施行以来、基本的には「存在してはいけない」赤線・青線地帯。でも、一点の曇りも容赦しない法律が定める世界と生々しい我々が暮らす実際の社会とでは、かなりの「ズレ」があることは大人だったら誰でも知っています。
本書はそんな「赤線(青線)地帯」を写真と文章でルポしたものです。「鳩の街・玉乃井」などすでに“死滅”した地域から、川崎・南町など“微妙な場所”まで地域別に追っていますが、屋根や窓の形や周辺の道路の形状など「赤線地帯特有の決まりごと」が、いまなお現存しながら、それでも都市の再開発という波に対して人知れず抵抗を試みている様子が写真を通してわかります。そこには確かに春をひさぐ女性が現存した事実があり、たとえ場所としては死滅しても、男女のさまざまな思いが確かに凝縮されているのです。
「汚いもの」「不快なもの」を排除していく世の中にあって、確かに「赤線」は時代遅れ、アナクロニズムの極致でしょう。実際、全国各地にいまで現存する「旧赤線地帯」も、実際に「汚い場所」から「快適で清潔な場所」へと変えられています。確かに防犯上や衛生面を考慮すれば、致しかたないことだと思います。果たしてその場所に渦巻く人の思いや情念までをも消し去ってしまっていいのだろうか、と考えないわけでもありません。街として一点の曇りのない状況、たとえば機能的な郊外のニュータウンのような街が果たしてベストと言えるのか、逆に無駄な場所や怪しい場所が存在してもそれもあわせ呑む「鷹揚さ」が街としての「余裕のようなもの」を生み出すのではないか。おそらく筆者がいちばん表現したかったことは、この点だと思います。