太平洋戦争終結に至るまで、各地の市町村役場には「兵事係」というものが存在していました。
徴兵検査や召集令状の交付など、兵事に関する膨大な業務を取り扱い、
悪名高き「赤紙」を召集者に届けるのも、この「兵事係」の仕事でした。
終戦直後、証拠隠滅をはかった軍上層部は各地の役場に命じて、保管されている徴兵関連資料を焼却処分させました。
このため各地域での徴兵の実態は、もやの向こうにかすみ、長らく謎となってきたのですが、
近年、かつての「兵事係」の中に、召集のむごい事実を後世に伝えようと、
軍の命令に背いて役所から資料をごっそり持ち帰り、自宅で大切に保存してきた人のいることが明らかになって、
この方面の研究が一気に進みました。
この本で紹介されているのも、
そうして守られてきた貴重な資料によって明らかになった事実です。
そもそも戦場へ駆り出される召集者は、一体どのような場所で、誰によって、どのように選抜されたのか。
そうして選ばれた召集者のもとに、「赤紙」がどのように届けられたのか。
まさに迫真のドキュメントと呼ぶにふさわしい生々しさで、具体的な事例が紹介されていきます。
無辜の家族が戦争によって引き裂かれていくむごたらしさに胸を締め付けられるのはもちろん、
当時の軍部や国家が、地域の役所を通じて、人々の暮らしの隅々にまで光らせていた監視の目がいかに戦慄すべきものであったかが、
改めて思い知らされ、寒気を覚えます。
扱っている題材はこの上なく重いのですが、練達の筆者による文章は実に明快で読みやすく、
また、ページをめくる手がもどかしくなるほどの、「読み物」としての魅力もふんだんに備えています。
手軽に読めて、しかも教えられるところは限りなく深いこの一書は、戦争について考えてみたくなった全ての人におすすめです。