物語は、周知の結末に向けて徐々に流れを速め、クライマックスの討ち入りに向けて滔々と流れていきます。
その流れを導いていた内蔵助はほぼ流されることなく屹立し続けますが(あと天真爛漫な堀部安兵衛など)、肉親のしがらみや恋心に心ならずも囚われ、討ち入りから漏れてしまう浪士たち、巨大な流れに自らの心を見失い虚無に生きる架空の人々の姿は、「英雄」となった人たちの雄雄しさとは異なる哀切となって物語に深い陰翳を与えます。
また、吉良側について、褒賞も名誉も無い戦いに命を捨てる上杉側の武士たちの覚悟と哀しさ。
大石も含め、歴史群像の一人一人が、我々に身近な「人間」として語りかけてくるようです。
それにしても、討ち入りの場面、最大漏らさぬ、それでいて読む者を圧倒する描写、そしてラスト、堀田隼人の運命・・・見事の一言です。