「七人の侍」の次にDVDを買ったのが、この「赤ひげ」です。美しいモノクロの画面、映像の素晴らしい質感。モノクロの表現力にあらためて驚かされます。ひとことでいえば、日本的ヒューマニズム映画でしょう。あるインタビューで、黒澤監督は「自分はサムライの家系で生まれ、そういう教育を受けてきたから商人の世界は描けない」と言ってました。たしかに、この映画はサムライのヒューマニズムで描かれているような気がします。そして、それが私たちの心を打つ。武士道に裏付けられた倫理観が戦後にいたるまで、日本人の行動規範を支えていたと感じます。だから、この映画にも共感する。この「赤ひげ」はいろんな意味で黒澤映画の分岐点となった映画でもあります。最後のモノクロ映画、三船との訣別、そして、以降カラー映画となるも黒澤映画独特の世界は薄らいでいったように思えます。とまれ、この「赤ひげ」は間違いなく黒澤映画の傑作のひとつと思います。加山雄三はこの映画出演で、やっと俳優として生きていこうと決心したそうです。数ある名シーンのなかで私がすきなのは、二木てるみが演じた、たしか「お千代ぼう」が加山雄三を看病するシーンです。娼家に売られ、下働きしていたが、まもなく店にでなくてはいけない。そんなとき、療養所に引き取られます。まったく人に心を閉ざしていたのが、加山演じる若い医師や赤ひげの心的治療により心を開き、人を信じる気持ちを取り戻す、人間らしさを取り戻すシーンです。二木てるみの演技が絶妙でした。何度見ても涙が出てくるシーンです。見たときは面白くても、記憶に残らない映画が多い。しかし、この映画はいつまでも記憶に残る、日本の名作と信じます。何度見ても味わいがあります。原作もいいが、これだけの映画にした黒澤監督の偉大さに脱帽です。