2004年の事であるが、Archives of Diseases in Childhoodと言ふ小児科の医学雑誌に、“Doctors in the movies”と言ふ論文が掲載された。この論文は、米国の小児科医G.Flores氏が、医学教育における映画の役割を論じた論文であるが、その中で、著者のFlores氏は、医者を描いた世界映画史上の150本を検討し、それら150本の映画の中で、最良の作品として、黒澤明監督の『赤ひげ』(Red Beard)を選んで居る。(G.Flores“Doctors in the movies”Archives of Diseases in Childhood.2004;89:1084−1088)アメリカの小児科医が、医者を描いた古今東西の映画の中で、最良の作品に、江戸時代の日本の医者を描いたこの映画を選んだのである。日本映画にとって誇りとすべき事なので、この論文の事をここに記しておく。そして、その上で言ふが、私個人は、(大の黒澤ファンであるが)この作品に少々不満である。(だから、星4つとした。)理由は、主人公(赤ひげ)が立派過ぎる事と、民衆を美しく描き過ぎて居るからである。医者とはこんなに立派な物ではないし、民衆はここまで善良な人々ばかりではない。(黒澤明は、医者を主人公にした映画を3本作ったが、私は、『酔ひどれ天使』の医者が一番好きである。)だが、江戸の町を再現したこの映画の美術は素晴らしい。そして、保本が新しい人生を開始するラスト・シーンの水の音と春の光は、本当に素晴らしいと思ふ。
(西岡昌紀・内科医)