「兄弟」と同じようになかにし礼の自伝的小説です。ただし、主人公は母親の波子。
「兄弟」で書かれていないなかにし礼の人生の隙間を書いた感じです。戦時中の満州の発展から、戦後の地獄のような有様。それを膨大な量の参考文献と自身の経験から物語を紡いでいきます。
それと注目したいのは彼の文章の持つ淡々とした響きです。パーっと読んでしまうと、何か下手な文章のように見えますが、それは違うと思います。彼は地獄を経験しました、そして読者も経験者あるいはそれがどんなものであったかを知っています。それなのにこの文章はあまりに淡々としすぎています。
僕は読んでるうちに恐怖感を覚えました。ある種の凄みを感じたのです。地獄を日常生活のように書いていることによって逆にその凄さを感じてしまいました。
物凄い文章を書く人だなと思ってしまいました。