”山”にまつわる怪異・恐怖談集です。なかなか珍しい試みだと思いますが、これが中々に良い。
登山など、無縁な私ですが不思議と違和感なく楽しめました。
それは著者に山の経験が豊富で愛着を持ってその情景を描写されているからでしょうね。
各エピソードは長くても数ページですが「怪異」を描くまでの舞台装置をトバすことなく的確な描写がなされているので読んでいて「味わい」があります。
凍てつく雪山の夜、仄暗い常夜灯が灯る真夜中の山小屋、真闇に沈む季節はずれの野営場など、もの淋しさが募って恐怖に拍車がかかります。
最近の「ホラー」は心霊を扱ったものでも描写がやたら血なまぐさかったりして恐怖よりも生理的嫌悪を掻き立てるものが多いような気がします。
しかし本書はそういうものではありません。
例えばタイトルになっているエピソード、吹雪の山小屋に避難した男性と小屋の前で行き倒れた赤いヤッケの見知らぬ男性の遺体。
幽霊や亡霊の描写は一切出てきませんし血の一滴も流れはしません。
しかし遺体を残して一人山小屋を出た男性の身に何が起きたのか?
事の顛末はまさに「背筋が凍る」思いをすること受け合いです。
これを含めて多くのエピソードは単に恐怖だけでなくどこか一抹の悲しみや後悔、罪悪感が含まれている点に注目。
それが即物的な嫌悪感ではなく「感情」としての恐怖を生んでいて結果的に深い余韻を生み出しています。
それは必ずしも忌むべきものではなく時には情操的にも必要なものであるように思います。
それが理由だからでしょうか、恐怖・怪談集でありながら本書の読後感は非常に良い。
おかしな言い方になりますが、心地良くゾッとしたいなら本書はおすすめです。