実際に贅沢をしたい人向けのガイドブックではなく、贅沢をテーマにしたエッセイ集と呼ぶべきか。個人的に一番面白かったのは、金持ちの友人の自家用ジェットに乗ってマルセイユに昼食を食べに行くエピソード。なるほど、豪快である。燃費や二酸化炭素の排出量など考えていてはとてもできそうにない。見事な匠の技を見せる仕立屋・靴職人・料理人といったプロたちの姿も魅力的だった。一方で、金持ちならではの悩みや煩わしさが皮肉たっぷりに描かれているところも鋭い。使用人に監視されるような生活、一種の社交儀礼のようになってしまった訴訟、金のかかる愛人、クリスマスショッピング。チップに関する章では、本家の欧米人自身が、実は日本人旅行者同様、チップの悪習に辟易している様子もうかがえて興味深い。
リムジンどころかタクシーに乗ることにさえ緊張してしまう貧乏性の私には、お伽話のお城の暮らし並みに現実感のない内容も多いが、それでも、中には少し心が動く贅沢もある。ただ、貯金をはたいて超高級ホテルや高級レストランに行こうと考えるより、例えばシングルモルトウイスキーあたりを軽く試して、あとは憧れ程度に止めておく方がやはり賢明かも知れない。
そして一方では、高級シャンペンどころかきれいな水さえ飲めない人々が世界には大勢いるということも、頭の片隅には留めておきたいものです。