自分は全くの純粋文系です。
そうでありながら、森羅万象を知りたがるありがちなゼネラリスト系で、
この手の本をずいぶん読み込んできたつもりです。
この本も、5月以来何度も読み返してきました。
結論として、大変残念なのですが、
他のレビュアーさんらのようには、この本を手放しで褒めることができません。
この本は、確かに、語り口が柔らかで、わかりやすいような気がする書き方になっています。
しかし、一番大切な「質量の起源」の説明が、どうにもよく分からないのです。
この本が主なテーマとしている質量の由来は、
物質のすべては光―現代物理学が明かす、力と質量の起源と同様、陽子・中性子の質量のうち、
クオークの固有質量に由来する2パーセント部分以外の98パーセントの質量の起源です。
それを説明するために、筆者は、南部陽一郎の理論に立脚し、
「カイラル対称性が破られることによりその部分の質量が生じている」と論じます。
しかし、残念ながら、この「カイラル対称性」とは何かをきちんと説明せずに、
(おそらく説明したつもりなのでしょうが)論を進めていきます。
結果、何故質量が生じるのか、一番大事なところが何が何だか分からないのです。
そもそも、何故カイラル対称性が破れると、質量が生じるのでしょう?
かゆいところに手が届かないのです。
残念ながら、この点の説明において、本書は「物質のすべては光」の明快さには届いていません。
また、一部、ヒッグス場によってクオークが上記2パーセント部分の固有質量を得る話と
その余の98パーセントの質量起源とを混同した書き方をしているかのように読めてしまう部分もあります。
(南部博士伝来の比喩なのでしょうが…)(例えば251ページあたり)
そして、この本は末章をもってヒッグス場による上記クオークの固有質量獲得の話を論じますが、
この話はわずか30数ページでは無理があります。
勿論、分かる人が読めば大変良いダイジェストになっていますが、この点を深く知りたい場合は、やはり
「標準模型」の宇宙 現代物理の金字塔を楽しむのごまかさない深淵かつ明快な論議をお勧めするしかありません。
とはいえ、この筆者の志、試みは大変良い物だと思います。
是非、修正すべき点を修正し、第2版に期待します。
敬愛しておられる南部博士も、自著「クオーク」を、立派に「クオーク第2版」にしているのですから…