・本書は、質的研究に直接関わっていなくても、対人支援に携わっている人なら
ぜひ一読を勧めたい書物である.著者は精神福祉領域の専門家と博士課程の研究者
で、彼らの思い入れも感じられる記述が随所に感じられた.
・竹田青嗣・西條剛央氏らの活躍で、近年現象学をベースとしたメタ認知理論が看護他
の質的研究に知られるようになっているが、質的研究が現象学をメタ理論として持つ
研究行為であり、この研究的態度が対人支援の本質を突いていることが周知されてきた.
そうした情勢の中で、本書はそのエッセンス的なところを扱っている.
・現象学的研究の課題は、
どうすればクライエントの個別的体験の意味を明らかにできるか
どうすれば研究者の主観を客観化できるか
の2点に集約されるとあり、
対人支援という現象では対象者と援助者が同じ実存構造をもつことが明記されている.
つまり、対象者は「苦悩から解放されたい」、援助者は「本当の支援がしたい」という
双方で「本当の」意味を求め合う関係であるとされる.
・対人支援がこうした構造を満たした状況であるならば、その目的は最終的に対象者の
リカバリーを支援することに他ならない.
安直な言い方だと、運動機能障害であろうと認知機能障害であろうと、日々の手段的支援
はそれらの症状への対応を主にしていても、最終的にはその人の精神的回復を視野に入れて
置かなければならない.その回復がなされた状態はどのような状態であるか、大まかな仮定
を置いておかなければならない、ということだと思う.
・特に、研究の具体例の章では、分かりやすい例で、対象者から発せられたメッセージの実存
的意味を明らかにする手続きが示されている.日々の臨床で対象者の言葉の真意を探る場合
でも、事例検討などで後ろ向きの研究にて支援を振り返る場合にも生かして行きたい方法
である.