「ロリータ」で有名なナボコフ。その人が戦間期にヨーロッパでロシア語を使って書いた本作、沼野充義訳。ロシア語から日本語に直接訳したものとしては初めてのものである。
文章では、やはり美しく量感があっていいと思う。主人公が中央アジアを父と旅行したあたりとか、最後のベルリンの森の中など、無学でも感じられるものがある。
しかしロシア文学の伝統と教養を繰り広げる辺りはまいった。かなりマニアック(今の日本では)だと思う。文学に関する文学なのだ。
昔なんとか読んだプルーストを思い出す。たしかに良さは感じられるが、厚い長いしんどい。あれも文学に関する文学だった。
ナボコフというとノスタルジーや技巧の作家として有名だ。人生の途中からアメリカに住んで英語で書くようになったこともあるので、母語のロシア語で書いた最後の作である本書に感傷的な興味を持つ人も多いだろう。だがこれは、感傷というよりは母国に対する文学者としての執念の本だと思う。軽く読める本ではない。それは確かだと思う。