野口氏の論述は,いかにも物理学科出身の経済学者らしく,きわめて論理的で歯切れが良い.世の中には多くの経済書があるが,これだけ論理的に書かれた経済書というのも珍しいのではないか? その論理の刃で人口に膾炙した俗説を滅多切りにする様は実に爽快だ.
曰く,金融緩和・円安政策による重厚長大産業の復活は賃金を低下させる,年金はもともとは積み立て方式で始まったが制度設計のミスにより賦課方式に変質した,少子化対策は年金問題を解決しないどころか悪化させる,人口減少は生産性向上にプラスの効果をもたらす,法人税率の引き下げは投資を促進せず格差を拡大する,消費税の福祉目的税化は財政規律を悪化させる,など目からウロコの結論が満載だ.
さらに,小泉経済改革が実質的には何の意味も持たなかったことや,重厚長大産業の復活や円安政策が,日本の経済構造の変革にとって逆効果を及ぼしている点などを鋭く批判.資本開国こそが日本に新の構造改革をもたらすと主張する.
本書を読むと日本の政府の無策ぶりや,すでに手遅れとなった年金・財政問題,さらには外資導入に拒絶反応を示す財界の現状に,暗澹たる気持ちにならざるを得ない.しかし,危機を危機として認識したときの日本民族は,かつて多くの危機を乗り越えてきた経験があり,その能力は失われていないと信じたい.その意味で,本書のような現状認識が,広く国民の間にいきわたることを願いたい.