本書で取り上げられている「買物難民」問題は、都市研究者の間でよく知られる英国の"Food Desert"問題と原因を同一にするものではあるが、英国の事例が低所得者層の多く住む地区への出店が避けられたことによる食料品・最寄品店舗の不足であるのに対し、本書で示される日本国内の事例は地域に関係なく高齢者層が食料品・最寄品を買う際の困難について言及したものである。
小売業の郊外化とモータリゼーションの進展は、若者〜壮年にはクルマさえあれば豊富な品揃えの中から大量に商品を買うことを可能としたが、クルマの運転ができない層、特に、将来の運転免許取得により状況を脱することができる若年層ではなく、既に運転免許の新規取得どころか更新も困難である高齢者層にとっては、まさに「日々の食料に困る」という死活問題と化している。
そこにおもな焦点を当てた研究、それも一般書として出版されたものは非常に数が少なく、それだけでも本書には相当価値があるといえるだろう。
一方で、本書は問題提起のみならず、この問題の解決策をも示している。
それは、既に過当競争が起こっているコンビニエンスストアにおいて高齢者向けの品揃えを強化することであったり、既存店舗からの宅配などの利用促進といったアイディアである。
既に国民の22%が65歳以上の高齢者である(平成20年度)現代日本においては、これらの解決策が重要なポイントとなるであろう。
ただ、惜しいところも本書にはある。
社会学・地理学等の分野において既に相当の先行研究のある英国の事例、あるいは経営学的な視点の研究が多い米国の事例等、他国での事例についてほとんど触れられておらず、「買物難民」問題をあくまでドメスティックな問題として扱っている点である。
日本以上の自動車化社会である米国の事例はもっと深刻である。
彼の地では、足元もおぼつかない高齢者がよたよたとクルマに乗り、広大な郊外のショッピングセンターで青息吐息で買物をして、またふらふらとクルマで帰宅するという事例が既に日常茶飯事となっている。
こうした他国との比較によるグローバルな視野の欠如が、本書の非常に惜しいところである。
そこを勘案して、評価は星4つとさせていただいた。
だが、現代日本の都市部における小売業を考えるには、避けられない資料ではある。
矢作弘氏の『
大型店とまちづくり―規制進むアメリカ,模索する日本』ともども、当該分野の研究者には一度目を通しておいて欲しい一冊である。