「偶然の祝福」所載の短編「蘇生」のモチーフを膨らませた物語。
長編化するにあたって、伝奇的な小川ワールドの要素が埋め込まれて行く。お約束の謎めいた館に住む世間と波長の合わない住人は、ユーリ伯母さん。そして避けられない人の死と別れ。本作ではさらに強迫神経症に苦しむ恋人や、俗物オハラが加わる。主人公はかつてあったそれらの人々との不思議なつながりを語る。要所で挿入されるオハラの「レポート」は、ブラフマンの埋葬を連想させる。
といった具合に、組み合わされる要素こそ異なるが、小川ワールドの骨格は変わらない。俗物オハラもいつの間にか心が純化され、清らかでなごやかな人の輪ができたのも束の間、悲しい別れは訪れる。切ないが、主人公はいつまでも伯母さんの瞳のように色褪せることのない美しい思い出とともに生きていくだろう。強迫神経症やロシア・ロマノフ王朝の悲劇、そして様々な動物の剥製等といった本作固有の要素がちりばめられながらも、そこにあるのはやはりとことん人、特に死者に寄り添う優しさ。だから著者の小説はどれも私を惹きつけるのだ。