「格差」という言い方でようやく私たちの意識に上りつつある我が国の重大な社会問題、それが貧困問題である。「貧困」というのは洋の東西、先進国途上国を問わずごく当たり前に存在する社会問題であり、「貧困との闘い」というのは非常にポピュラーな社会イシューだ。「貧困(poverty)」が社会問題であるのは、いったん「貧困」状態に落ち込んだら個人の努力でそれを抜け出すことが難しく、しかも世代を超えて「貧困」状態が受け継がれてしまうというはっきりした傾向があるからである。それゆえ、あらゆる国の政府にとって「貧困との闘い」という課題が設定されている。
ところが、驚くべきことに我が国では「貧困」という社会問題は長く忘れられてきた。それほど長く経済の成長が続いてきた(とりあえず「全員が豊かになれる社会」を実現してきた)ということは実に偉大なことであるが(類い希な幸運にすぎないのかもしれないが)、経済成長が停滞し、日本にも「貧困問題」が復活してきたというのに社会的意識と政府の施策がそれについて来ていないのは大きな問題である。
本書は、豊富な実例をもとに、日本にも「社会問題としての『貧困』」がすでに存在していることを冷静に実証している。著者の筆致は甚だセンセーショナルな事柄を扱っていながら、極めて客観的である。自立生活サポートのNPOの事務局長として生活保護申請拒否の事件で市役所に乗り込んだときの体験も記述してあるのだが、決して感情的にならず市役所がなぜそのような対応をするのか、沈着な分析を加えている。信頼に足るレポート、と感じた。
真実を語る者の声は、常に静かである。