ドストエフスキーのデビュー作。後の大作群に比べると小品なのだが、彼の特徴はデビュー作から良く出ており、人間観察に基づく圧倒的な心理描写、庶民の視点に立った温かい思い遣り、そして何と言っても読者を物語に引き込む職人芸、これらが全て本作でも発揮されている。
物語自身は、下級官吏と下流層の若い女性の恋を主に書簡を通じて語るというもの。ロシア文学の伝統か、男側はやや高齢に設定してある。男は自分に自信がないため、書簡の中で饒舌となる。この饒舌性はドストエフスキーの一つの特徴であり、会話の中であれ、地の文であれ、作者の迸る心理描写は止まる所を知らない。作者自身も貧困のドン底で作品を書いているので、作者が主人公二人を初めとする貧しき登場人物達に同情の眼差しを向けるのは当然であろう。そして、作者の想いをそのまま読む者に伝える事ができる並外れた筆力が、またドストエフスキーの特徴である。更に、文学性を考えずに単なる通俗小説としても読める作品を生み出す力も驚嘆すべきものがある。本作はデビュー作でありながら、これらの特徴が全て出ているのである。
結末を安っぽいハッピー・エンドにしないのも作者らしい。本当に泣けてくるのである。これで、一番軽めの作品なのだから、ドストエフスキーは恐ろしい作家である。世界の最高峰の小説家がその持ち味を出し読む者の圧倒的共感を呼ぶデビュー作にして傑作。