短編6編からなる、政界の「議事堂の穴」、日銀本店内の「日本銀行の壁」、メガバンク資金証券部の「金融市場の窓」、霞が関の「財務省の階段」、民放の「ニュースの枠」、国会内政権与党の「幹事長室の扉」。人間の欲望や好奇心や深層心理の怖さがわかる面白い試みだ。だから経済ホラー小説などとは言わない方が良い。また1編が短過ぎ軽い読み物になってしまうのが惜しい。政界絡みの国会内での廊下の穴や、幹事長室はぞっとする。思わず引き込まれるのは、日銀や銀行の話だ。第2話の日本銀行本店の1階・4階はある機会に職員の欠席がやけに目立つ。4階金融機構局の桂木広志総務課長は若手の赤峰真也にその原因調査を指示する。その赤峰の様子の変化は怖い。第3話は、3行の大統合後のふたば銀行資金証券部債券投資チームのディーリングルーム、次長の南部は1986年に日本實業銀行に入行し、債券ディーリング業務一筋の男。S&Pが米国債格付を1ノッチ下げた影響で国内債券市場も大荒れになり、その中で苦悩するディーラー達の話が非常に印象に残る。南部次長が部下への昔話に「タテミ・ショック」がある。舘美化学工業の財務担当者が、総資産300億円足らずに拘らず2000億円以上を債券先物に注ぎ込んで、結局倒産してしまった。似たような社名でその昔に実際に大事件になったのを思い出す。本作品は各界の建物の穴・壁・窓・階段・枠・扉がテーマになっているが、いずれもその異様な空間の中で、何とも言いようのない怨念を残して終わっている。ある意味で「笑ゥせぇるすまん」の登場人物の会社員の結末を見ている想いになった。