「官僚のなかの官僚」のそのまたなかの官僚とでも云うべき大蔵省(現 財務省)事務次官の座をめぐる人間臭さに満ち満ちた人事のドラマを、著者が長年の取材メモを元に書き下ろした一著。エピソードも満載で、官僚制度ひいては日本の政治経済体制について多くの知見を与えてくれる好著である。
「今回の騒動で先輩や後輩などいろいろな人たちから話を聞いて、誰に信望が集まっているか、よく分かった。結局、武藤、君だったよ」(95頁、小村武の言葉)。
「山口君、総理は僕だよ」(116頁、中曾根康弘の言葉)。
「いやいや、われわれが本当に強かったら、日本の財政なんてこんなふうになっていませんよ。国、地方合わせて八百兆円の借金なんてね。要するに主計局は、常に敗戦、敗北の歴史です、僕に言わせれば。政治と闘って勝ったためしはないんじゃないの、正直な話・・・・・・」(177頁、武藤敏郎の言葉)
個人的には、1989年12月の公定歩合引き上げ白紙撤回事件の真相(156〜165頁)など、本書により初めて知ったことも多く、大変勉強になった。それにしても「役人は人事がすべて」(247頁)ではあるにしても、これだけ優秀な数多の人材群が数十年もの間、一つのポストをめぐって恰もただ競争のためだけに圧力釜で蒸されるかのような状況は、とても正常とは思われない。ある意味、壮大な国家的損失(無駄)ではないのか。