「わたしの背中をみなさい」というワンフレーズにしびれた日本人は、男女を問わず少なくないのではないかと思う。このセリフは、むかしはもっぱら渋めの男性が使うものであったが、いまこのセリフがいまもっとも似合うのが本書の著者である澤穂希その人であることに意義を唱える人は多くないはずだ。
そんな澤選手が、自らを語ったのがこの一冊である。執筆を依頼されて迷ったと本人が書いているが、アドバイスを受けて背中を押された末に執筆を決意したのは、チャンスはけっして逃さないという生き方の反映でもあるだろうし、「まったく別の世界の人と交友関係をもつ」、「周りの環境を変えたかったら、まず自分が動く」という「習慣」の実践でもあるのだろう。
この本を読むにあたっては、サッカーについてある程度までは知っていることが望ましいが、そうでなくても現場リーダーのあり方について書かれた本として読むこともできる。
日本代表チームのキャプテンとは、企業社会のコトバをつかえば、現場リーダーのことである。プレイイング・マネージャーといってもいい。現役の選手であり、かつ選手のとりまとめ役でもあるキャプテン。
日本代表チームの監督であった佐々木監督による著書『なでしこ力(ぢから)−さあ、一緒に世界一になろう!−』(佐々木則夫、講談社、2011)はワールドカップ優秀前に出版されたものであったが、佐々木監督を女性の多い職場を統括するジェネラル・マネージャー(GM)にたとえれば、澤選手は女性だけの職場の現場マネージャーである。そういう観点からこの二冊を読んでみるのも面白い。
タイトルのなかに数字を入れるのはビジネス書の定石だが、本書にあげられた「32のリーダーの習慣」の32に特別な意味があるとは思わないし、また文言だけ取り出したら平凡な響きしかもたないかもしれない。しかし、それらのコトバが澤選手のこれまでの苦労や活躍のエピソードをまじえて語られるとき、がぜん輝き出すから不思議である。さすがに何かをやり遂げて結果を出すリーダーの発言は違うな、と。
ややビジネスよりの読みに終始してしまったが、もちろん、この本は人間・澤穂希の手記として読むのがまっとうな読み方だろう。読者も澤選手にならって有言実行!といきたいものである。