あるものやことが好きになって,知りたさに身もだえするのが青年期だとすると,
自分の知りえたものを表現できるのは青年期以降となります。
著者の40代の終いの日々で,好きなものに関する連載エッセイをまとめたものが本書です。
著者は文庫本のあとがきで述べます。
その頃に好きだったものは今も大概好きだと。
気に入っているものが安定することに,著者はほっとしている一方,自己のなんらかの時代の終焉を感じて一抹の寂しさを持っているように感じられました。
著者は今はもう居ない作家達と同位相の世界へと降りてゆきます。
著者はもはや断絶してしまった昔の自分を眺めます。
そして,偏屈で気難しい,もしくは優しく温かみのある中年男性ならではの感傷を綴ります。
その人が生きてきた道筋の中で,消え去ることなく残った「好きなもの」を味わうことが出来るとても贅沢なエッセイです。