後年 村上春樹ー安西安丸は コンビとなって各種の楽しい本を出してきたのが歴史だが二人のコラボは本作が初めてだ。
1983年12月に出版されているが その年は「中国行きのスロウボート」「カンガルー日記」という初めての短編集、初めてのカーヴァーの翻訳「ぼくが電話をかけている場所」が出ている。村上にとって比較的リラックスした年だったように見えるかもしれないが 新しい分野に挑戦する 綱渡りのような年だったのかもしれない。
本作を2009年に読み返すと 1983年当時の村上が持っていた「洒落た都会小説」というムードだけではなく その後の村上が書くことになる ある種の奇妙な超常現象への志向の萌芽を感じる。
言葉を話す犬や 表題の「象工場」等は この段階では たわいのない作り話であった。しかし この志向が大きく育ち 村上独自の世界の一要素となっていったのが歴史だと僕は考えている。
読んでいて1980年代中旬を思い出した。そう カティーサークは とても高級なお酒だったのだと。万年筆が好きだったのだと。そうして 喫茶店で一人で村上春樹を読んでいたのだったと。