本書は秀吉出生から死亡とその後まで追っていますが
次の二点に焦点を当てています。
第一は、出生から27歳までの時期です。
良質な資料から存在を確認できる以前の時期の秀吉を考察しています。
歴史学における論理展開の方法を垣間見ることができ、
門外漢にはおもしろい部分です。
第二は、文禄・慶長の役から戦前です。
太閤伝説と時の政権との関係を、朝鮮出兵から、
江戸、明治、大正、昭和とページを割いて丹念に綴っています。
柳条湖事件の2ヵ月後に大阪城復元天守閣が完成したとは盲点でした。
きっと北海道における義経伝説も、
似たような経緯で広められたのではないでしょうか。
その他、歴史的にはっきりしている時期については、
筆者が秀吉史を要領よくまとめているため、
サクサク読み進めることができ、快適でした。
また引用している古文を飛ばし読みしても
その内容がわかるように要約されています。
ただし、文禄・慶長の役については、
当時の日本および世界での戦争例と比較せぬまま、
現代的視点から殺戮や暴行を蛮行と決め付けて、強調しすぎています。
耳きり・鼻きりの背景の説明が明快だけに惜しまれます。
また、羽柴秀勝出生に一項を割いたにもかかわらず、
秀頼出生にまつわる噂について一言も触れていないのは残念です。
問題点はあるものの、総じて、なかなかおもしろい本でした。
秀吉の実像と虚構のギャップ、伝説の政治利用に興味がある人には
薦められる一冊です。