週末、馴染みの店のマスターがしきりに賞賛するので、
上巻のみを借りた。
ところが、前夜の酒が残ったおそい土曜日の午前、
ふと読み始めたら、もう止まらない。
(未読の方は、必ず上下一緒に買われることをお薦めします)
終戦直後の東京下町から幕が開く、ある平凡な警察官親子の物語。
しかし、「平凡さ」とともに、時代の相貌を見事に織り込みながら
(ときに臭覚にも訴えつつ)展開される確固たる筆力は、
ほんとうに唖然とするくらい上手い。
もう、最初の10数頁でぐいぐい惹きつけられてしまった。
土曜深夜に上巻を読了する“危険性”を回避するため、
夕暮れ時に下巻を買いに行くことになったが、
寒気を凌ぐ、物語に籠められた熱さが体を貫いていく。
結局、土日全部と月曜の朝までほぼぶっ通しで、
2冊を読み切ってしまった。
上巻は、応召体験のある清二と、その子民雄が主人公。
民雄は昭和40年代の学生運動最盛期に成人する。
下巻は、民雄と、その子和也が主人公。
時代は昭和から平成へと移り、犯罪者の質的変化、
警察機構の軋みなどが、存分に盛り込まれてゆく。
もし、ミステリーとして評価されたのなら、それはそれでいい。
しかし、犯人捜しだけに限ったら、大抵の読者は途中で、
「誰か」に(或いは「なぜ」にも)気づくはず。
だからといって、この作品が二流な訳では、決してない。
むしろ自分は、この上下2冊を、戦後日本人が備えていた
「種」が、半世紀をかけてじりじりと変容し、
脆弱になりながらも、継承し続けた遺伝子の尊さ、
…その軌跡を描いた博物誌、として読んだ。
傑作。