本巻では思わぬものが登場する。本能寺の変に関連して、公武の対立はあったかという問題の論点として必ず出てくる暦である。私が読んだ本の範囲で一番詳しかったのは新書「織田信長 最後の茶会」だが、当時の暦の何が問題だったかは理解していても、本能寺の変の後、この問題がどうなったのかは気に留めていなかった。
実はこの問題、家綱〜綱吉にかけての朝幕間の17年間の懸案だったとは。それがどう解決され、赤穂事件とどう関わってくるか(ここは著者の仮説だろう)は、読んでのお楽しみ。
また、本筋とは離れるが、元禄時代の貨幣改鋳は悪政ではなくむしろ善政だったとの説明がある。経済界に身を置いていた著者らしく、経済学の言葉を用いてわかりやすい解説だ。
その他、生類憐みの令等、綱吉の諸政策についての論評が行われるが、こういった事項は読んで得したと思える。
では肝心の本筋の赤穂事件の謎解きだが、謎のタネが思ったより少なく、もう全体の峠は越えたかな、という感想を持つ。下巻が討ち入りの日から逆算してのスケジュール消化にならないことを祈るのみだ。