「蘇我氏」、「継体天皇」に続いて著者が「秦氏」について考察したもの。前二書を読んだ感想では、古代史の謎に真摯に取り組む学研者と言う印象を受けたが、本書はテーマ自身が良く分からない上に、肝心の論考も傍証に乏しく期待外れの感じ。
まず、論考の対象が何故「秦氏」なのかを最初に説明すべきなのに、いきなり出自の問題から始まる。渡来人の技術者集団と言う漠然としたイメージを具体化する意図かもしれないが、信頼に足る文献が無いため、結局「良く分からない」との結論なのである。「秦=機織」との先入観を覆し、大規模な農耕集団だったと言う論は新鮮だったが。秦氏と馬の関連も面白そうなのだが、「今後重要な問題となっていく」と勇み足なのである。更に秦氏が治水、古墳造営にも力を発揮した事が示される。その代表が秦河勝である。河勝と聖徳太子の関係も仄めかすが、ハッキリとした論考は無い。「秦河勝=田楽の創始者」論を初めとする他の説も、空想の域を出ないものか他の研究者の引用である。読者が求めるものは、古代の政治・文化面で秦氏が果たした役割の明確化であり、第六章の長岡京・平安京造営にその片鱗が見えるものの秦氏を持ち上げ過ぎで、全貌は曖昧のままである。視界が開けたとは言い難い。秦氏から高官が出なかった理由も説明出来ない。
随筆なのか学術書なのか不明な体裁。茫漠としたその記述は、渡来して巧みに日本に溶け込んだ秦氏の世渡り術を思わせる。本として発表するには早過ぎた感がある。