著者の貝塚茂樹先生は、中国古代史を専門とされた東洋史学者ですが、中国近現代史にも明るく、その教養の広さにおいては同じ京都学派のメンバーであった桑原武夫先生と双璧をなすものだと思います。また、貝塚先生は、地質学・地理学者の小川琢治氏の次男に生まれ、ご兄弟に冶金学者の小川芳樹氏(長男)、ノーベル賞物理学者の湯川秀樹氏(三男)、中国文学者の小川環樹氏(四男)持つという、アカデミックな環境で成長されたことが、幅広い教養の背景になっているのだと思います。
先生の著作には2種類の『論語』があり、『論語―現代に生きる中国の知恵』が最初の作品にあたります。こちらは『論語』の訳注と解説に重きを置いたものではなく、中国古代史学者による『論語』の入門書というべき作品ですから、2作目の全訳注『論語』(中央公論社)と比べて低い評価を受けています。しかし、2つの作品の訳し方や解説の内容は異なるものであり、書かれた経緯から考えても優劣を付けて済ますこと自体が誤りであり愚昧なことなのです。
2つのの作品を読み比べることによって、『論語』の全訳注をすることになった著者の考え方の変化と、『論語』に対する思索の一端を垣間見ることができる貴重な資料でもあると思うのです。これは、『論語』を学ぼうとする者にとっての道しるべであり、良い手本になると思います。2作品を読み比べられることをお薦めします。