専門としておられたフランス文学の研究者のみならず、東洋の学術分野にも明るかった著者の傑作です。「中国詩文選」(筑摩書房)の一部として、吉川幸次郎先生の依頼を受けて書かれた作品です。『論語』の前半部分である「郷党第十」までの部分を、さらに抄訳されたものですから、一見物足りなく思われるものの、実際には読み応えのある解説が詰まっています。お父様が東洋史の教授だったことから、著者自身にも素養が備わっていたのでしょうが、この作品が世に出されたことは、それを見抜かれて依頼をされた吉川幸次郎先生の超ファインプレーだと思います。この作品の特徴は、荻生徂徠の『論語徴』と伊藤仁斎の『論語古義』の注釈に注目しつつ、多くの注釈を踏まえて解説されているところでしょう。日本の論語研究史を知るとともに、翻訳を試みる際の柔軟な思考力に驚かされます。著者が本気で『論語』の全訳をされていたとしたら、論語研究の分野にも大きな足跡を残されたと確信します。副読本的な体裁をとってはいますが、間違いなく必読本です。