年が改まって、まず手にしたのがこの本だった。
本書は私のいわば「人生の教科書」だ。
初めて出会った時、私は冗談抜きに泣いた。
手元の本には、涙のこぼれ落ちた跡がしみになって残っている。
「論語」というと、何やら堅苦しい道徳ばかりが並べられているような気がするが、本書は決してそうではない。
孔子とその弟子たちとの、人間味溢れる言行録なのだ。
ここに「聖人」孔子の姿はない。
確かに孔子は、人格の完成した人間として描かれてない訳ではない。
しかしそれは、人間を超越した「聖人」ではなく、身近な親しみのある「師」なのである。
孔子を取り巻く弟子たちは、立派な「師」に就いているのだから、さぞかし優秀な弟子だと思うが、違う。
みな「馬鹿」なのだ。
「馬鹿」といっては弟子たちに悪いが、我々凡人と同じく、先生にこっぴどく叱られることもあれば、生きることに苦悩もする。
全然普通の人間なのだ。
だからこそ、私が手近に置いて「人生の教科書」としたい所以なのである。
本書は「論語物語」であって「論語」ではない。
「論語」を再構成し、「論語」にはない言動の背景、あるいは孔子と弟子の心理をも描写してしまう、著者下村湖人の力量が素晴らしい。
彼が優れた思想家であり、また教育者であることが自ずとうかがえる。
彼の代表作である「次郎物語」も、合わせて読みたくなる。
本書は万人に薦めたいし、特に教員や教員志望の者は必読するべきではないかと思う。