各国各所で研究プロセスや論文の捏造やデータクッキングの類が科学への素朴な信頼を揺るがせている現在、本書で扱っているシェーン事件は大きな波紋を投げかけている。
若造の助手の捏造をベル研究所の権威あるベテラン学者たちが見抜けなかったこと。科学者同士の暗黙の了解や信頼のナイーヴさ。一流科学雑誌のピアレビューが機能不全に陥っていること。
NHKがバックについているとはいえ、著者チームの綿密で執念深い取材力には頭が下がる。
エピローグで著者は、わからなさの時代ということを唱えている。先端科学だけでなく、科学の恩恵を享受している現代社会そのものが、わからなさの真っ只中にある。それを少しでも解きほぐすために、真面目なジャーナリズムの苦労が求められている。
なお、講談社ブルーバックスの『背信の科学者たち』の併読も是非お薦めしたい。