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この本は、表記上の禁則事項や引用上の注意等の形式的な方法ばかりを並べた類のハウツー本と違って、多少なりとも真面目に学問に取り組もうとする人が必ずぶつかるであろう問題に焦点を当てています。ある程度学問に関心があって、実際に文章を書いている人、或いは書きたいと思っている人にとっては、「あるある」の連続を経験することと思います。
本書に通底しているのは、レポートや論文をいかにして書くかは、当該テーマの内容をいかにきちんと理解できるか(する気があるか)に関わっているということです。1章で著者は、自分の勉強に役立ちそうな硬い本を丹念に読んで、短い枚数でその紹介を書くという方法を勧めています。読むだけではなく書くこと(紹介)を始めたとき、途端にしんどくなってくる。しかし、書くというしんどい行為を通して、初めて書物に記されている対象の奥へ深く突き進むことができるということです。
特に次の二点は学問をする上で助けになる教えです。
一つ目は、著書や論文を批判するときの話(3章後半)。相手が言おうとしていることを批判したいのなら、先ずは相手の言っていることを自分が代わってキチンと言えるぐらいでなくてはならない。そうして初めて、本当の批判を加えることができる。こうなると文章の修業は内容の勉強に発展する。しかし、批判対象に深入りしているうちに、批判対象の渦に巻き込まれてしまう。いつの間にか批判対象と同じことを述べてしまう。本当の批判というものは、一度は自分が渦に巻き込まれてから、悪戦苦闘の末、そこから身を解き放つ場合に始めて成立する。
二つ目は「経験と抽象の間の往復交通」について(7章)。
抽象的な言葉を憶えるとどうしてもそれを使って表現したくて、必要の無いことまで抽象的な概念を使って話したり書いたりしたくなってしまう。それはまさに学生のサガです。「私たちが(経験と抽象の間の)大きな溝を飛び越えるときには、それに先立って当惑や決心が必要であるだけに、彼岸へ飛び移った途端によそゆきの抽象的な言葉を覚えたり使ったりする喜びでいっぱいになり易い。…しかし…元来一般的観念というものは…経験の世界を捌くのに役立つところに意味がある」
どちらも「あるある」でした。そして大いに助けられました。
この本は、文章を書く上での心構えという点で役立つのは勿論のこと、学問をする上での悩みを幾分か解決してくれる本でもあります。