本書の問題点は、簡化太極拳と、各派伝統太極拳を、対等にならべた点にあります。
制定拳は、「太極拳運動」として国家が制定した運動で、武術である各派伝統太極拳とは、まったくちがったコンセプトで制定されたものです。
本書は、もっとも重要であるはずの、この一点を完全に無視して書かれています。
酷評する以上、その根拠と本書の問題点は、以下に列挙します。
第1の「?」ゆっくりうごくのはなぜ?
スポーツが得意な人はスロートレーニング効果を知っているものです。それとおなじです。
もうひとつは、静止から最高速力までの時間を短縮することが武術練習の目的です。
しかし、段階的にレベルアップしませんと身体がもちません。
それで、ゆっくりから最高速まで段階的にトレーニングします。
しかし、作者は「ゆっくりだけでは太極拳は上達しない」という現実を明言していません。ここが疑問です。
第2の「?」なぜ中腰姿勢?
下肢の筋トレは納得できますが、他はどうでしょう。
伝統太極拳各派は、実用時は、歩行か小走りで戦います。中腰にはなりません。
「架式訓練」と実用がちがうのは、中国武術に共通する特徴です。
本書の「弓歩」の説明は正確ですが半分しか解説されていません。
「それ以上は、太極拳の先生に聞いてください」では「なぜ」は解決しないでしょう。
第3の「?」中心軸とは?
これは作者の独創です。
「国家制定拳」である「簡化太極拳」の指導教本に、著者の主張する練習法は存在しません。
つまり、「制定拳」の範囲を大きく逸脱した指導と練習を提唱している点が疑問です。
第4の「?」左右対称でないのはなぜ?
これも武術常識でしょう。
拳法や空手の套路や型は左右対称でないものがすくなくありません。
しかし、基本練習では左右均等に練習します。結果的に得意な側ができますが、左右対称が基本でず。
基本訓練がダメな徒手武術は、使い物になりません。
著者が、本文中で主張している内容は、とても納得できるモノではありません。
第5の「?」覚えられないのはなぜ?
意味も目的も不明な運動など、覚えられるものではありません。
人間は必要最低限を覚えればいい、
簡化太極拳を覚える必要がないから覚えない、
それが、太極拳の哲学であるはず。
第6の「?」「気」とは?
ここは、著者の大暴走。
「国家制定拳」である「簡化太極拳」は「運動」であって「気功」ではないのです。
ゆえに、「気功」に関する指示は存在しません。
伝統各派太極拳は「気功」が存在します。
武技と気功を消去した「運動」として国家が制定したのが「簡化太極拳」です。
ここを忘れては、簡化太極拳は、その原点の精神を失ってしまいます。
第7の「?」呼吸はどうする?
これも、著者独自の見解で、「制定拳」としての「簡化太極拳」の練習や指導の範囲を逸脱した提案です。
のガの応用でしょうが、これは「我流の練習法」の提唱で、標準からの逸脱という疑問があります。
制定された条項が気にくわなければ、著作者自身が創作、制定した太極拳を普及するのがスジです。
自分の都合で、拡大解釈した「国家制定の簡化太極拳」を宣伝に使うのは、どうなのか。
この点が大いに疑問です。
第8の「?]太極拳でホントに強くなれるの?
答えはハッキリしています。
1、どの流派の、2、誰に、3、どこまで伝授されたか。
で決まります。
簡化太極拳は「太極拳運動」で、各派の伝統太極拳ではありませんから、強くなるはずがありません。
著作者の主張している套路練習などは、時間の浪費であって、絶対に強くはなれません。
マトモに3年ほど訓練すれば、使えるようになるのが武術です。流派は関係ないでしょう。
以下はちょっと複雑ですが、
著者は、
「陰陽開合」=「起承開合」=「起承転結」
と主張しています。
これは大暴走、トンデモの、大間違いです。
「陳氏太極拳図説」にいう「陰陽開合」は人体の正常な構造と機能を論じている総論的内容です。
しかし、「起承開合」は武式太極拳の専用語であり、具体的な技術動作の要領です。
両者の内容は、まったくちがいます。
なぜ、著者がこんな大嘘(大間違い)を主張するのか、著者に聞いてみたいものです。
第9の「?」ワンパターンの実例は?
論より証拠で、
武式でいう「起承開合」の具体的な運動要領の指示
と、
著者のいう「起承転結」の具体的な運動要領の指示
とは、
まったくちがったモノになっています。ワンパターンどころではありません。
武式太極拳独特の運動規定と、独自の運動規定をもった簡化太極拳の運動要領は、根本的にちがうのです。
実際には、
1、陳式太極拳の「陰陽開合」
2、武式太極拳の「起承開合」
3、著作者独自の「起承転結」
という「3パターン?」が存在しているのです。この疑問と「なぜ」は、著者に聞いてみたいものです。
本書は、大変に変な本です。
最後に簡易太極拳の野馬分鬣について
陳発科の老架、野馬分鬣は左右がちがっていました。
右は正身の野馬分鬣
左は半身の野馬分鬣
でしたから、
簡化太極拳を制定した関係者が陳式の架式にしただけです。
努力賞として、星2コも考えましたが、周元龍老師のイラストと比べると、本書のイラストがひどいので、星1個にしました。