本書を読んでいると、ほんとうに楽しそうに勉強しているのが伝わってくる。だが当時にして三木は全部原書で読んでいるわけだから尚凄い。それに、翻訳や解説書の周辺情報を元に原書に突っ込んでいくのとは少々訳が違うと思う。今と違って映像情報も極端に少なくイメージの点では今日に比して凄いハンデがあった筈だ。そんな環境から欧州に留学、凄まじい吸収力を発揮している感じが良く伝わってくる。勘所の良さもたいしたもので、ニコライ・ハルトマンにさっさと見切りをつけてハイデガーについてしまう辺りは当時の現地の学生の動きを敏感に感じて追随したというよりハイデガーの講義から看取したものに違いない。独逸語だけでなく、現地ですかさずフランス語も物にしてしまう点も驚き。第2次大戦後も活躍した哲学者たちの若き横顔も素描され楽しい。全編通じて素敵な文化史になっていると思える。時々変な詩を読んでみる辺りはご愛嬌。文体から察するに図抜けて優秀な割には自分に「酔った」ような暢気なところがあり、これが後年悲劇を生んだかと思わずにはいられない。著者のパスカル論は、IQの高い、手の早い奴が欧米の学者のアイデアを横取りして書いて大衆にうけてしまう、後年の悪例を作ったと思われ感心しない。でも、本については、目先の効くこと話のほかで、戦後も生き長らえていたら、批評家、文化のナビゲーターとしては大いに寄与したと思われ、それは残念。