「鬼平」を読んで池波正太郎の粋に酔ったら、さらに奥深い「半七」の世界へどうぞ。
僕も最近ようやくその魅力にハマって色々と読み漁っております。
何しろ作者の岡本綺堂は幕臣の息子として明治5年に生まれ、新聞記者から戯曲作家になったという経歴の持ち主。
しかもコナン・ドイルの「シャーロック・ホームズ」を原書で読んでいたという才人で、
その影響から書き上げたのが日本初の探偵小説であるこの「捕物帳」。
きびきびとした簡潔な文体はとても大正〜昭和初期(90年前!)に書かれたとは思えない瑞々しさで、
エセ時代小説では味わえない本物の江戸言葉とさっぱりとした江戸っ子の粋が味わえるのです。
初めて読む人は面食らうかもしれないので前置きしておくと、大きな特徴は以下の3つ。
1.聞き書きスタイル
日清戦争前後の東京で新聞記者である「私」がふとしたことから知り合った半七老人から昔話を聞くというパターン。
かつて名岡っ引きだった半七老人の語る捕物談と明治期の東京の風景描写とのコントラストが、
日々消えつつある江戸情緒を浮かび上がらせるという構成になっています。
2.リアルな展開
この半七老人には実在のモデルがおり、文政6年に日本橋の通い番頭の息子として生まれたというはっきりした経歴があります。
扱った事件も急転直下のあっけないオチがついたり、複数の事件が同時に起きるなど、実話としか思えないリアルさ。
いかにも作り上げたようなトリックや見せ場的なチャンバラはほとんど出てこないので拍子抜けするかもしれません。
三角関係や痴情のもつれなど案外艶っぽい話も多いのですが、読者が一番知りたい下世話な部分はあっさりカットしてしまいます。
うーん、江戸っ子はシャイなんですねぇ。
3.怪談話
綺堂は怪談を愛しており、怪談話も素晴らしく面白く名作が多い人(こちらもお勧め!)。なのでこの「半七」にも怪談調の話が多い。
大抵の場合、作り話や見間違いで悪人の芝居だったりするのですが、時々まったく説明のつかない怪現象もある。
例えば名作「春の雪解」だと事件は解決したのに、ぽつんと謎が残ってしまう。読み終えるとゾッとします。
この本は半七マニアの北村薫と宮部みゆきがセレクトした傑作選の第1集で、半七入門編にはぴったり。
後半についている作品解説と2人の対談が非常に面白く、既読の人でも楽しめる内容になってます。
続編の「もっと、半七!」もお勧め!