田島正樹氏は、永井均氏などとともに、わが国の優れた哲学者の一人であるが、学会などにはめったに現れないので、その姿を見た人は少ない。『ニーチェの遠近法』『哲学史のよみ方』などは、知る人ぞ知る名著だが、本書もまた、類書のない興味深い哲学事典になった。田島氏は、イギリスの哲学者マイケル・ダメットの系譜に連なる、「反実在論」の立場に立つ哲学者であり、その一貫した視点から哲学の重要概念を説明している。
本書の魅力は、分析哲学的な切り口ながら、それをはるかに越える哲学史の豊かな鉱脈を活用する、その驚くべき自在さにある。アリストテレス哲学を手馴れた道具のように使いながら、ギリシア悲劇から、モーツァルトのオペラ、現代日本の政治状況まで自由に横断するさまは、まさに哲学の快楽そのものであろう。田島氏は、この世に「新しい意味が生まれる」=「(偶然による)創造」という視点から、哲学の諸概念を分析する。これは、ユニークで貴重な試みだ。「運と偶然」「ここと私」「自然とユートピア」「弁証法と(再)定義」「保守主義と左翼」「法と革命」「本質と時間」などの項目は、特に優れており、相互に深い連関があるという洞察に納得。