この一冊は、まるで小さな『井筒俊彦著作集』のようです。
井筒俊彦は自分を語ることに慎重な人物だと思われていましたが、
『読むと書く』では、ときに、ほとばしるような鮮烈な文章で内心を吐露しています。
また、これまで語られることの無かった、鈴木大拙、西田幾多郎、
西谷啓治などの日本人思想家の交流、あるいはマシニョン、コルバン、
デリダ等同時代の海外の学者、思想家との交わりも明らかになります。
宗教との関わりでは、中世の神秘家ベルナールを論じた
「神秘主義のエロス的形態」や詩人ポール・クローデル論などからは、
ある時期、彼がキリスト教に熱情的に接近していた事実を読み取ることができます。
西脇順三郎、池田弥三郎といった師友との日々を語った文章では、
彼の死生観をも垣間見ることができ、また、言語学、イスラーム学、哲学、
それぞれの分野で彼がどのような軌跡を経てきたのかも、
本人の言葉で語られ、哲学者井筒俊彦誕生の秘密の一端が明らかになります。
井筒俊彦の読者は、既刊の書籍に、この1冊を加えることで、
「井筒俊彦全集」邦文編を完成することができます。
井筒俊彦の名前や彼の思想に興味を持ちつつ、
これまで著作を手に取ることの無かった人にとっても、
最良の入門書であり、読後には愛読書になるでしょう。
本書の刊行をもって、井筒俊彦研究はやっと基盤が整ったといっていいと思います。