私は、現役の精神科医師として20年以上勤務している。
日本の精神医療では、診断や治療があまりにも医師の価値観やバックグラウンドに左右されることを身もって経験している立場だけに、本書には非常に共感できた。患者だけでなく、その御家族やスタッフも到底納得できないような医師の治療方針に対して、本音はいつもたいていはコメディカルに訴えてられてきており、その構造が医師の自己満足的な姿勢を強化してきたようで自身大いに反省させられた。本書は、精神医学の限界を決してネガティブにとるのではなく、逆に、それを仮説の柔軟性という形で生かそうと提言している姿勢に自身の診療観にまで影響を受けたように思う。プライドの高い医師が自分の無知を素直に認められないがゆえに発展してきたような理論武装を、立場の弱い患者に無理に押しつけて正当化するような愚は終わらせるべきであろう。