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たったこれだけ。なのにこの文章だけで例えば雪を実際に見たことがない人でも、じんわりと心を閉ざさんとする雪の感触が、伝わるかもしれません。
私は雪深い土地に生まれ育った。荒々しい波が打ち寄せる海まで歩いて10分という所に住んでいる。この物語の冒頭から物語にすんなり入り込めたのも、この物語が私の心を離さないのもそれに少し関係があるかもしれない。私は毎年この本を手にとる。冬の匂いがしてくると、どうしても読んでしまう。
厳寒のフィンランドが舞台となっているこの「誠実な詐欺師」はタイトルからして相反する単語の結合である。人を誠実に欺くとはどういうことだろう?
お金がないばかりに苦労を重ねて生きて来た女性(彼女には数学に関する哲学と非凡な計算能力がある)カトリと、両親が残した莫大な不動産と自らの画家としての才能が生む印税という動産を持つ女性(お金には興味がなく、彼女曰くお金の話は下品なのだそうだ)アンナがある事件をきっかけに同居を始める。しかしその同居はカトリがずっと温め続けた、たったひとつの夢を実現させる為に作られたシナリオ。彼女は誠実にアンナの財産を掠めてゆく。他人と触れあうことによって生!じる温もりではなく、壊されてゆく日常と奇妙に絡まった絆。読み進めて行くと、「詐欺師」という言葉よりもむしろ「誠実」という言葉が重みを増してゆく。やり方はともかく、カトリは誰よりも誠実なのだ。
ストイックに簡素化された文章が、吐き出された雪のように読み手の感情に揺さぶりをかける。悪い人間は誰一人として存在せず、なのに所在ない切なさがそこにあった。 読み終わった後、あの街は、そして彼女たちはどうしているのだろうと徒然に思う瞬間を与えてくれる。 ムーミンシリーズとは趣の違うこの1册は間違いなくトーベヤンソンの真骨頂。 是非、御一読を!
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