ピクシーことストイコビッチが、どれほどスゴいサッカー選手だったか?
私を含め、運良く彼のプレーをリアルタイムで堪能することが出来た者にとって
いまさら説明する必要はないだろう。
サッカーに詳しくない人でも、彼のプレーを一目見れば
「明らかに他と違う」ことは一目瞭然だった。
(もしピクシーのプレーを見たことがないのなら、本よりもDVDがお勧め)
「オシムの言葉」で、一気に注目を浴びたこの作家も、
ピクシーの超人技に驚いたサッカー素人の一人。
ピクシーのプレーから受けた衝撃をきっかけにして、
まだ危険の残る旧ユーゴスラビアへの丹念な取材を行い、
いまでは旧ユーゴサッカーのエキスパートである。
この本は、そんな木村元彦氏の実質的なデビュー作。
「その選手がいかに素晴らしいか」と言うことをこれでもかと訴える点において、
他の同類の本と一緒にされるかもしれない。
しかしながら、あきらかに同種の本には書かれていない感動がある。
その感動のきっかけは、残念ながらあまりにも酷な悲劇の数々だ。
祖国の崩壊、昨日までは友人だった民族間の対立・憎しみ、
理不尽な国際社会からの制裁、度重なる不運な怪我、
偏見から来る審判の不公平なジャッジ etc
しかし彼は負けない。
当初単なる気分転換での短期滞在のつもりでやって来た日本で、
超人的なプレーで我々の度肝を抜き続ける。
すっかり日本に馴染み、「真剣に日本人への帰化を考えた」ほどらしい。
選手としての凄さだけでなく、彼を知る誰もが尊敬することを止まない
人望と行動力の持ち主でもある。
ピクシーのような選手が日本で長期に渡ってプレーしたことは、
我々日本人のとっては、信じられないほどの幸運だと思う。
しかしそのきっかけは、彼にとってはこれ以上ない悲劇だった。
それを教えてくれるこの本から得られるのは、
何とも言えない複雑な「感動」なのである。